読める日の停車駅

千を超える蔵書を少しづつ少しづつ読んでいます。読んではいるものの、元来読んだ内容を忘れやすいので、内容や雑感を記しています。誰かに見て頂いている態で書くのは大変おこがましいので、淡々と記録のような書き方をすることもあります。

2020-01-01から1年間の記事一覧

親の見守る愛情がひしひしと伝わる作品・宮沢賢治「貝の火」

「宮澤賢治・人と藝術 他遺稿童話集」より 宮澤賢治の短編童話「貝の火」 昭和十年頃の抜取りのようなので、著者天逝のおよそ二年後に遺稿として誌面を飾ったと思われる。命を助けた礼に"貝の火"という宝玉を授かってからというもの、親の忠告も聞かず、傍若…

文学キャンプ第二夜

youtubeの小説紹介第二弾を作ってみました。 今回は、戯曲の名手が贈るひとつになれない二人の話です。 よろしければご覧下さい。 https://youtu.be/2vUZlFB5K7I/:embed/

文学CAMP動画作成

文学に慣れ親しんで貰いたい想いから、youtube向けの動画を作成しました。。「リップ・ヴァン・ウィンクル」という、米国作家ワシントン・アーヴィングの短編集「スケッチ・ブック」の中の代表作。https://youtu.be/9QPASVr7KiA:embed/ お時間あればご覧下さ…

芥川龍之介の翻訳「クラリモンド」

クラリモンド…彼女が私の前に現れたのは、一人の僧侶として、神の下に生涯を捧げると誓ったその日であった… その日を境に彼女の虜となった私は、少しずつ只着実に破滅へ近づいてゆくのであった。私の心を魅了し、決して放そうとしない美しく妖しい女クラリモ…

趣のある装丁「星の王子さま」

岩波少年文庫版53をどうしても持っておきたく、ネットで色々捜し廻り、昭和39年の重刷を入手した。 テグジュペリ「星の王子さま」黄色く塗られた段ボールの函と、装丁のアンサンブルが何とも言えなくいい。

お気に入りの作品「煙草と悪魔」

芥川龍之介の短編集「煙草と悪魔」より表題作の「煙草と悪魔」 フランシスコ・ザビエルの宣教団の一行に紛れて日本へやって来た悪魔が、牛商人との知恵比べをする話。せっせと畑仕事に精を出す姿、夜はきちんと寝ている姿など悪魔が何とも人間らしくて滑稽で…

世知辛い世の中の縮図を猫で再現した名作「猫の事務所」

宮沢賢治氏は、動物や自然を使った人間社会の表現が非常に巧みである。 写真はたてしな書房の宮沢賢治復刻版短編集「猫の事務所」より登場するのはすべて猫であるが、そのまま人間社会の縮図と見ていいといえる。仕事も周囲への気遣いも申し分ないのに、住ん…

物悲しくもゾッとする昔話「リップ・ヴァン・ウィンクル」

気立てがよくのんびり屋のリップ・ヴァン・ウィンクルが、口煩い妻から逃れ、気晴らしの狩猟に出掛けた山で出会った奇妙な一団との酒宴。ついつい飲み過ぎた後、気付くと今しがた居た筈の場所は変わり果て、延いては自分の住まいに家族、周囲の人々、政治思…

一夜だけの仲間。ホーソン「七人の風来坊」

ホーソンの短編集より「七人の風来坊」一泊の雨宿りをと立ち寄った馬車小屋に、何かに導かれるように集った七人の紳士淑女の顔触れ。 一晩だけの行きずりの仲間たちが、其々の持ち味を披露しながら、"野外集会"に参加するという行き当たりばったりの計画をぶ…

ひと昔前の手触り「賃金・価格および利潤」

およそ経済学の本に縁遠い私であったが、行きつけの古本屋さんの岩波文庫コーナーに、一際異彩を放つ装丁が。 茶色の唐草模様に、粗めであるが今の岩波文庫より軽くて優しい手触りの紙質、目に優しい旧仮名遣いの活字。SNSの読書グループの方の助言では馬糞…

完成度抜群のノベライズ「エイリアン」

本作は流通市場でも入手できるものであるが、およそ二年前オークションで入札合戦を経て、流通価格より安価に入手したものである。広大無辺な宇宙空間の静けさを表した何とも味のある装丁である。 後に主人公リプリーをエイリアンとの闘いの生涯へと誘う原点…

装幀が魅力的な「黒蜥蜴」

云わずと知れた名作をふじ書房版で愉しむ。江戸川乱歩「黒蜥蜴」 美しく華麗で非情な女賊"黒蜥蜴"と名探偵明智小五郎。 賊としての自信とプライド、探偵としての威信を掛け、宿命の対決の幕が切って落とされる。どちらがどちらを欺いているのか、息も付かせ…

「定本青猫」1,000部限定版入手の話

かつて短編集「猫町」を読んだ際、いまいちその世界観に付いて行けなかった萩原朔太郎氏の作品群であったが、オークションで詩集「定本青猫」の1,000部限定復刻版が挙がっているや否や、居ても経ってもいられず、虎視眈々と勝負の時を待ち続け、怒涛の入札合…

理想と現実「牛肉と馬鈴薯」

国木田独歩の短編集「酒中日記」より「牛肉と馬鈴薯」今は無き明治倶楽部にその夜は珍しく灯っている明かり。其処に集った七人の紳士が、温かいストーブの前で、牛肉を"理想"、馬鈴薯(じゃがいも)を"現実"に見立て、誰ともなく大いに自らの主義・思想・経験…

もう一度「悲しみよこんにちは」

以前読み終えたサガンの「悲しみよこんにちは」に、昭和三十年代の文庫版表紙があることを、ある古本屋さんのツイートにより知った。問い合わせてみたが、今から二年前の記事だから勿論もう売れている。しかしある日、インターネットオークションを物色して…

春琴抄と再会した話

本とは様々な出会いがある。 一冊ゝの本に手にした時の思い出がある。この作品もそのひとつである。 「春琴抄」谷崎潤一郎著初めて読んだのは三年前の文庫版。 その当時は、句読点のない読み難さに、もう読むことはないだろうと思っていたもの。時が経てば不…

寂寥感溢れるひと夏の悲しさ「悲しみよ こんにちは」F・サガン

多分読書会の選書にならなければ手に取ることがなかったであろう本書。いつも背表紙を見ても気に留めることなかった一冊が、こうして読まれるようになること、そしてこれまで知らなかったり関心がなかった作品を読むことによりる新たな発見、読書観の変化も…

悲哀漂うユーモア番頭物語「駅前旅館」井伏鱒二

昨日までのお盆三連休、いつも以上の飲食に体重の跳ね返りを気にしつつも、最近誕生した新しい命の温もりを胸に抱き、我が子の時はどうだったかなと思い浮かべつつ、家族皆の笑顔を少しむこうから眺め、わたし自身もここに居る幸せを感じる。 そんなささやか…

穏やかでやさしい隠れたSFの名作「ベティアンよ帰れ」クリス・ネヴィル

休日の穏やかな晴れた朝に読むのがよく合う本書クリス・ネヴィル著「ベティアンよ帰れ」。今朝読み終えた感銘の焔が消えないうちにこちらに綴りたいと思う。 かつてはダニエル・キイスの名作「アルジャーノンに花束を」と軒を連ねていたもののようであったが…

青年時代をめぐる回想「お菓子と麦酒」モーム

イギリスが誇る文豪の一人といえば、サマセット・モームが挙げられるのではないだろうか。 以前からモームは知っているものの著者の作品にまだ触れたことなかったのであるが、この「お菓子と麦酒」というタイトルに惹かれ、昨年末に購入してからというものし…

華麗なる翻弄「血の収穫」ハメット

かつて推理小説にハードボイルドスタイルを確立した偉大な米国作家ダシール・ハメットの傑作のひとつ「血の収穫」について綴りたいと思う。 講談社文庫S53.4.15 1刷ちなみに本作は複数翻訳されており、自分なりのリサーチの結果、翻訳内容・カバー画のインパ…

「ジョーズ」ピーター・ベンチリー

照付ける陽射しと青空、碧く煌めく海面、仄暗い水中、静かに忍び寄る三角の背びれ...「夏」と「海」で連想される映画と言えば、海洋スリラーの金字塔スピルバーグ監督の「ジョーズ」 が最もよく浮かんでくるのではないだろうか。 なお、この映画「ジョーズ」…

「ペスト」デフォー

あるサイトの紹介で、カミュの「ペスト」と表題を同じくする小説「ペスト」が存在することを知ったのが、本書を入手するきっかけであった。カミュの「ペスト」を読み、疫病に立向かう人々の姿と、そこはかとなく漂う類まれなる文学性に感銘を受け、いずれ併…

趣味のしおりづくり

読書の他に最近少しハマっている趣味の端くれ。 自分用栞づくり お気に入りの本の表紙やジャケットを使っているので、あくまで自分用として使用するだけ。まずはセリア材料製 こちらのセルフラミネートは若干硬めで、より熱接着ラミネートに近い仕上がり。続…

「トリフィド時代」ジョン・ウィンダム

文化が...開発が...生産が...農耕が...実生活を取巻くあらゆる環境が突如崩壊したら一体どうなるだろう。 まず本作の主題になっている「トリフィド」との邂逅は、およそ30年前私がまだ小学生のときに好んで持っていた「怪獣もの知り大百科(ケイブンシャ)」…

「老人と海」ヘミングウェイ

先ほど読み終えたばかりのアーネスト・ヘミングウェイの名作のひとつである「老人と海」について綴りたいと思う。 今回どうせ読むのであればと、素人ながら本格志向になってしまいこちらの装幀で揃えた。青い海と容赦なく照りつけ海面に反射する日光、握られ…

「廿日鼠と人間」スタインベック

今回は以前読んだジョン・スタインベックの代表作のひとつ「廿日鼠と人間」について綴りたいと思う。 角川文庫S35.6.10初版、杉木喬 訳 わたしが参加させていただいている読書会の課題図書になった際、個性を出してみたくて選んだのがこちらである。「廿日鼠…

読書観について真面目に思うこと

随分ブログをほったらかしにしていた。 年単位で放置してしまっていた。 その間も本への傾倒は続いており、趣向も緩やかに変化していった。 積む本も緩やかに増えていった。 遅読傾向は相変わらずのところで、メルヴィルの「白鯨」読破に四苦八苦した挙げ句…

「虹の彼方に」高橋源一郎

過去に読んだ「ジョン・レノン対火星人」や「さようなら、ギャングたち」で既に耐性と予想はついていながらも、相変わらずの筋書きのないハチャメチャ振りに、読書中何度も放り出そうと考えた本作。 何とも可愛らしいイラストで飾られた表紙。「虹の彼方に」…

「深夜プラス1」ギャビン・ライアル

今年の上半期わたしが読んだ小説の中でも最も面白い作品と言えると思う。まず、「深夜プラス1」という印象的で意味深なタイトルに惹かれ購入に至ったのも正直なところである。あわせてこの味のあるカバー画。この作品を敢えて手短に表すのであればわたしはこ…