愛でる本

すべての本に敬愛を。読む量に対して積む本の量は数知れず。これから読む本、読んだ本の記録、大好きな本について、古本漫遊記など気まぐれに綴っています。

「廿日鼠と人間」スタインベック

 今回は以前読んだジョン・スタインベックの代表作のひとつ「廿日鼠と人間」について綴りたいと思う。

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角川文庫S35.6.10初版、杉木喬 訳
 わたしが参加させていただいている読書会の課題図書になった際、個性を出してみたくて選んだのがこちらである。
「廿日鼠と人間」という旧字と、旧角川カバーのレトロな雰囲気に少々堅そうな印象を受けるが、読んでみると杉木氏の訳文が割と現代らしい表現であり、文章がすんなり心に入ってくるので読み易い。
 ちなみに本作はわたしのお気に入りにもなり、訳者違い・装幀違いで本書含めて三冊蔵書している。

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 まず最初に持っていたのが一番右側の新潮文庫版で未だに未読状態。前述のとおり読書会に合わせて揃えたのが一番左の角川文庫版で2番目。
翻訳違いの読み比べとして揃えたのが中央の旺文社文庫版。
世の中には旧カバー(カバーなし)の河出文庫版もあるらしい。
訳者によってタイトルが異なり、作品に対する印象も随分違っているように思える。
ちなみにラストの台詞部分をそれぞれ読み比べたところ、最もナチュラルな印象をうけたのは、左の杉木訳であった。

廿日鼠と人間

 自分たちの農場経営を夢見ている世渡り上手で目はしの効く男ジョージと、相棒のでくの坊で子供のように純粋な男レニーが雇われた農場で切ない物語が展開する。

ジョージの居なくなった世界でレニーは何を見て、何を聞き、何を知り、何を感じるのか。

レニーの居なくなった世界でジョージは何を見て、何を聞き、何を知り、何を感じるのか。
 ジョージはあくまで夢と労働者の現実のギャップを理解していながら、彼なりの優しさをもって、一人では何もできないレニーに淡い夢を見させていた。それが自らの活力であった。
 純粋なレニーはジョージが語る淡い夢を目に浮かべながら、ジョージの後ろ姿を追い掛け、彼に付き従う。そしてそれは彼の生の源と明日への活力でもあった。
 静かに暮れる農場の空がひび割れ、やがて一抹の哀しみに変わり、夢見ている二人の姿を少しずつ闇が包み込んでゆく...。

 作中に登場する登場人物ひとりひとりが個性的であり、狭い農場という職場環境の中で物語が終始するため、情景も至極分かりやすい。
二人の雇われた農場で起きたある事件をきっかけに、崩れゆく二人のアメリカン・ドリームとこれから辿る運命を長閑な農場の情景に対比して感じることができるのが、本作の最大の魅力である。
 本作は文学としてとても優れた作品であるため、いつか訳者違いの読み比べを愉しんでみたいと思う。

ハツカネズミと人間 (新潮文庫)

ハツカネズミと人間 (新潮文庫)

 

 訳が抜群に良かった杉木訳
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