読める日の停車駅

千を超える蔵書を少しづつ少しづつ読んでいます。読んではいるものの、元来読んだ内容を忘れやすいので、内容や雑感を記しています。誰かに見て頂いている態で書くのは大変おこがましいので、淡々と記録のような書き方をすることもあります。

過去4年からの振返り

細々と本と読書に関することを綴り始めてもう4年経っていた。 本当に細々なので、これまででやっと85投稿続けて来られたのが、飽きっぽい自分としてはよく続いているものだと思う。 読んだ作品はこのところ備忘のためにインスタグラムに都度整理しているのだ…

フレドリック・ブラウン「73光年の妖怪」

わたしの思う読書の種類には、一度に通読できるものと、時間をかけないと通読できないものとの大きく二つに大別できると思っている。 その違いは、簡単に言うと内容の軽重によるものと思っているのであるが、今回通読したフレドリック・ブラウンのSF作品「73…

バルザック「谷間の百合」ノート1

主役の私(フェリックス)は幼い頃から親兄弟に愛されず、特に母親に愛されず、色々な学校に転々と預けられる生活をする。 もちろんそこでも、金銭面の援助や衣食に関してもほとんど受けられず、不当な少年時代を送ることとなる。 幾ら母親の気に止まる事をし…

いのちの半ばに見た幻想「アウル・クリーク橋の一事件」

そういう落ちだったのか…と思わせるのは、ビアスの「いのちの半ばに」に収録されている「アウル・クリーク橋の一事件」。 ビアスの作品のうちで有名なもののひとつのようである。 話はアウル・クリーク橋の欄干にて絞首刑を目前に控えた男の、命がけの逃走劇…

マイクル・クライトン「アンドロメダ病原体」

冒頭からドキドキさせられる。 屋外で両手を胸に当てたまま死んでいる沢山の人に群がるハゲタカの群れ。 そして、遺体の上を跨ぎながら、この惨状の目撃者2人の目の前を横切った人物描写の恐ろしさ。 どうもこの町に墜ちた米国の衛星が関与しているという疑…

ホーソーン作品集「七人の風来坊」より、「デイヴィッド・スウォン」

おそらくは今後平凡な道を歩むであろう、青年ディヴィッド・スウォンは、これから番頭としてはたらくことになった親類の職場を目指している。 彼は通りで乗合馬車を拾おうとするが、あまりの暑さと疲労で、湧き水がある手近な楓の木陰でぐっすり寝込んでしま…

自作蔵書管理システム作成

本の購買欲が一区切りついてきたので、ACCESSにて自作の蔵書管理システムを構築している。 写真はシステムの一部、「蔵書登録」画面 なかなか満足が得られるビジュアルでは無いながらも、蔵書一覧・登録・読書記録までの一連の流れを実装したので、自宅の本…

読書していると脳内がテレビ代わりになるので、テレビは要らないと思う持論

本格的に本を読むようになってからというもの、自分からテレビを点ける事がほとんど無くなったように思える。 点けても本や作家に関する番組ばかりのような気もして、それもほとんど機会が無い。 強いていえば、YouTubeで特定の文学作品についての四方山話チ…

テグジュペリの「夜間飛行」の主役リヴィエールに見る経営者の熱き魂とその哲学

テグジュペリの中編作品「夜間飛行」の主役、夜間郵便飛行の支配人リヴィエール。 彼は非常に冷徹で恐い。 これはあくまで下の立場から見たリヴィエールの姿であり、実際職場にこんな上司が居たとしたら、毎日背筋がすくむ思いであろう。 作中の彼は職員と職…

「集金旅行」を通読すると近代日本文学のエンタメ帝王は、やはり井伏鱒二であると思う

以前通読した「駅前旅館」から受けるユーモア溢れる文体と粋な遊び心、少しの哀切からずっと注目し続けているのが井伏鱒二先生。その作風は決して荘厳ではなく、おおらかでテンポも小気味よい。 しかもちゃんと文学している。 先日、久し振りに著者の作品を…

法と不実の犠牲者ヨーゼフ・Kに哀悼の意を・カフカの「審判」まとめ

この小説とも作者の悲痛な訴えともとれる大作「審判」 全編を通して感じるのは、結局のところ権力には抗えないということであり、その前ではいくら目で見える色が白でも黒になり得るのだ。 これが法と秩序を司る裁判所の実態であるというのが、作者カフカが…

読書ノオト・カフカの「審判」第十章および未完の断章

第十章 結末 ある日の夜9時頃、シルクハットの男二人がKの自宅を訪ねてくる。 Kはその男たちに両脇を固められながら、何処ともなく歩を進める。途中橋の欄干から見える、かつてKが昼寝していた長閑な川のほとりの情景が、これまでの殺伐とした空気をすべて帳…

読書ノオト・カフカの「審判」第九章

物語も大詰めを迎えるかと思いきや、一向に見えてこないKの罪業。 この章の前半は久しぶりに物語ぽくなっており、読むのに退屈しない。第九章 伽藍 Kはこのところ銀行仕事において、接待ばかり任されるようになり、足許が覚束ない調子である。 今回も支店長…

トーマス・マンの短篇「悩みのひととき」の通読により受ける詩人シラーの熱い情熱は、自分自身を奮い立たせるきっかけにもなる

トーマス・マンがゲーテとともに師事していた1700年代の有名な詩人に、フリードリヒ・フォン・シラーという人がいる。 (designACのイラストよりシラー) トーマス・マンの短篇の中に、シラーの創作までの苦悩と燃えるような情熱を綴った一作「悩みのひととき…

読書ノオト・カフカの「審判」第八章

章末にある訳者の解説によると、この章は訳文以上に続きがあるらしい。 「城」でのKと内儀さんの会話並みに、Kと商人ブロック、レェニ、弁護士間の対話が退屈に感じ、複雑である。第ハ章 ブロックという商人 弁護士を解約する腐敗した裁判制度に辟易していた…

読書ノオト・カフカの「審判」第七章

裁判制度についての平坦な会話が延々と続くので、退屈な章ではあるが、流石カフカのアイロニーが溢れている。第七章 弁護士 工場主 画家 Kは前章の弁護士から、裁判官と割と面識のある画家を紹介され、早速その画家の住まいを訪ねる。 画家は裁判所自称顧問…

読書ノオト・カフカの「審判」第五章から第六章

第五章 鞭を鳴らす男 ある日Kが職場の倉庫からうめき声がするので、扉を開けてみると、第一章に出てきた監視人のフランツとヴィレムが、一人の笞吏に鞭打たれている。 何でもKの逮捕の日、下着を横領したのとKの朝食を無断で食べた罪らしい。 次の日もKは同…

読書ノオト・カフカの「審判」第一章から第四章

こうやってまとめていると、後でも分かりやすく思い出しやすい。 【審判】 第一章 逮捕 主人公ヨゼフ・K、起き抜けに自身の部屋で突然の逮捕(とは言え拘束はされない) 隣人女性ピュルストナー留守の間、彼女の部屋で、謎の男たちに囲まれ謎の陳述が始まる。 …

城崎の情景を思い浮かべながら志賀直哉の「城の崎にて」を読んでみる

兵庫県の城崎温泉が舞台となった、随筆とも小説とも取れる志賀直哉の短篇「城の崎にて」 山手線の列車に跳ね飛ばされながらも、奇跡的に一命を取り留めた主人公(作者自身)が、療養のため滞在した城崎で体験した幾つかの小動物の「死」とその間際に、自身の命…

ヘミングウェイ「白い象のような丘」にある、男女の修羅場の向こうに仰ぐ雄大な山なみはどんな風景だったのか想像する

スペインの駅の酒場で列車を待つ、ある男女の会話を切り取ったヘミングウェイの有名な短篇は、私の持っている作品集「キリマンジャロの雪(瀧口訳)」では、タイトルが「白い象のような丘」であり、よく目にする方のタイトルは「白い象のような山並み」である…

蠅の視点で読んでみる・横光利一「蠅」

馬車の崩落事故から唯一生還する蠅を中心に描いた、小説の神様、横光利一の名短篇「蠅」 View this post on Instagram A post shared by kaz-teaの本とうたた寝 (@10_daydream_book) 客を乗せた馬車が崖下に落ちてゆく中、唯一事故を予見しながらも無関心に…

親の見守る愛情がひしひしと伝わる作品・宮沢賢治「貝の火」

「宮澤賢治・人と藝術 他遺稿童話集」より 宮澤賢治の短編童話「貝の火」 昭和十年頃の抜取りのようなので、著者天逝のおよそ二年後に遺稿として誌面を飾ったと思われる。命を助けた礼に"貝の火"という宝玉を授かってからというもの、親の忠告も聞かず、傍若…

文学キャンプ第二夜

youtubeの小説紹介第二弾を作ってみました。 今回は、戯曲の名手が贈るひとつになれない二人の話です。 よろしければご覧下さい。 https://youtu.be/2vUZlFB5K7I/:embed/

文学CAMP動画作成

文学に慣れ親しんで貰いたい想いから、youtube向けの動画を作成しました。。「リップ・ヴァン・ウィンクル」という、米国作家ワシントン・アーヴィングの短編集「スケッチ・ブック」の中の代表作。https://youtu.be/9QPASVr7KiA:embed/ お時間あればご覧下さ…

芥川龍之介の翻訳「クラリモンド」

クラリモンド…彼女が私の前に現れたのは、一人の僧侶として、神の下に生涯を捧げると誓ったその日であった… その日を境に彼女の虜となった私は、少しずつ只着実に破滅へ近づいてゆくのであった。私の心を魅了し、決して放そうとしない美しく妖しい女クラリモ…

趣のある装丁「星の王子さま」

岩波少年文庫版53をどうしても持っておきたく、ネットで色々捜し廻り、昭和39年の重刷を入手した。 テグジュペリ「星の王子さま」黄色く塗られた段ボールの函と、装丁のアンサンブルが何とも言えなくいい。

お気に入りの作品「煙草と悪魔」

芥川龍之介の短編集「煙草と悪魔」より表題作の「煙草と悪魔」 フランシスコ・ザビエルの宣教団の一行に紛れて日本へやって来た悪魔が、牛商人との知恵比べをする話。せっせと畑仕事に精を出す姿、夜はきちんと寝ている姿など悪魔が何とも人間らしくて滑稽で…

世知辛い世の中の縮図を猫で再現した名作「猫の事務所」

宮沢賢治氏は、動物や自然を使った人間社会の表現が非常に巧みである。 写真はたてしな書房の宮沢賢治復刻版短編集「猫の事務所」より登場するのはすべて猫であるが、そのまま人間社会の縮図と見ていいといえる。仕事も周囲への気遣いも申し分ないのに、住ん…

物悲しくもゾッとする昔話「リップ・ヴァン・ウィンクル」

気立てがよくのんびり屋のリップ・ヴァン・ウィンクルが、口煩い妻から逃れ、気晴らしの狩猟に出掛けた山で出会った奇妙な一団との酒宴。ついつい飲み過ぎた後、気付くと今しがた居た筈の場所は変わり果て、延いては自分の住まいに家族、周囲の人々、政治思…

一夜だけの仲間。ホーソン「七人の風来坊」

ホーソンの短編集より「七人の風来坊」一泊の雨宿りをと立ち寄った馬車小屋に、何かに導かれるように集った七人の紳士淑女の顔触れ。 一晩だけの行きずりの仲間たちが、其々の持ち味を披露しながら、"野外集会"に参加するという行き当たりばったりの計画をぶ…