読める日の停車駅

千を超える蔵書を少しづつ少しづつ読んでいます。読んではいるものの、元来読んだ内容を忘れやすいので、内容や雑感を記しています。誰かに見て頂いている態で書くのは大変おこがましいので、淡々と記録のような書き方をすることもあります。

「ペスト」デフォー

 あるサイトの紹介で、カミュの「ペスト」と表題を同じくする小説「ペスト」が存在することを知ったのが、本書を入手するきっかけであった。
カミュの「ペスト」を読み、疫病に立向かう人々の姿と、そこはかとなく漂う類まれなる文学性に感銘を受け、いずれ併読したいと思い、デフォー著の「ペスト」がわたしの本棚の仲間入りをしたのが早や一年半前であり、読み終わったのがおよそ四ヶ月前、新型感染症流行に伴い政府が「緊急事態宣言」を発令する数日前であった。
 数ある蔵書のうちでこの時期に本書を選んだのは、やはり現在猛威を振るっている新型感染症拡大の状況と照らし合わせてみようと思ったからであった。

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ペスト (中公文庫 C 8)
 写真の手持ちは中公文庫S60.2.15 四版であり、当時ネットでも安価で入手できたものだが、今現在は少し価格が高騰している。
ちなみにこの新型感染症禍の2020年にカミュの「ペスト」とともに作品が再注目され、同社から下記の黒い背景の表紙カバーのバージョンが再版されている。

ペスト (中公文庫)
昔の作品が再評価されるというのは、世間がその文学を必要としており、その時代背景や文学性に触れる絶好の機会であるのでとてもよいことと思う。

ペスト

 カミュの描く「ペスト」が、疫病とひたむきに立向かう人間たちの真摯な姿を描いた作品であることに対し、デフォーの「ペスト」は1600年代が背景で、著者本人の幼少期に起きた厄災を見聞したものをドキュメンタリーテイストに表現した作品であり、疫病禍における現実と群集心理を巧みに描いているのが特徴である。
 例えば、当時の政府が打立てた感染拡大防止対策で、感染者がでた家庭は家から一歩もでないよう監視人(ウォッチマン)を付けるようなことも行っており、その中で家族が死滅してしまう事例や、監視人の目を盗んだり監視人への金品贈与などのあらゆる方法を用いて脱走を試みる感染者家族の事例、自分はもう死ぬからと知人宅を訪ね感染拡大させる感染者の事例、ペスト大流行の中、開き直って街中を闊歩する人々、ここぞとばかりに空き巣を働く人々など事例はまだまだ挙げられるが、現在の状況と照らし合せると人の心理は昔も今もさほど変わってないことがよくわかる。
また、感染者の移動による地域単位の感染数増加の推移も示されていることも非常に興味深い。
 もうひとつ特筆すべき点として、著者が作中の「わたし」を通じて当時の政府の方策やはたらきへ賛辞を唱えていることである。これは誰にでもできることではないと感心した次第である。
著者ダニエル・デフォーが書き遺したこういった様々な教訓のなかで最も印象に残っているのが、「何よりも病原から逃げることが大事である」という点であり、今の時代に我々が取るべき行動の基本が表わされている非常に参考にすべき言葉である。(とはいうものの反面、主役の「わたし」は危険な場所も顧みず、無双状態でずかずか踏み込んでいくような人物なのだが...)
 最期は神の力によるものか、潮が引いたようにペストが終息していったという希望の光が射しているが、今の危機的状況もいつか光が射してくれることを祈りたい。

この際カミュのペストも注目することもいいかもしれない。

ペスト(新潮文庫)

ペスト(新潮文庫)

 

 著者デフォーの有名な作品としたらやはり「ロビンソン・クルーソー

ロビンソン・クルーソー (集英社文庫)

ロビンソン・クルーソー (集英社文庫)