読める日の停車駅

千を超える蔵書を少しづつ少しづつ読んでいます。読んではいるものの、元来読んだ内容を忘れやすいので、内容や雑感を記しています。誰かに見て頂いている態で書くのは大変おこがましいので、淡々と記録のような書き方をすることもあります。

穏やかでやさしい隠れたSFの名作「ベティアンよ帰れ」クリス・ネヴィル

 休日の穏やかな晴れた朝に読むのがよく合う本書クリス・ネヴィル著「ベティアンよ帰れ」。今朝読み終えた感銘の焔が消えないうちにこちらに綴りたいと思う。

 かつてはダニエル・キイスの名作「アルジャーノンに花束を」と軒を連ねていたもののようであったが、残念ながら本書は既に絶版となっている本書。このような作品は是非復刊を願うばかりである上、映像化されても実によいと思う。

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穏やかな日差しとと影がよく合う味のある本書のカバー画。
早川書房S47.11.30 初版

ベティアンよ帰れ

 ある雪の日、交通事故で崖から落下した車から発見された赤ん坊。両親は既に事故で亡くなり、デイブ、ジェーンのセルドン夫妻が彼女を養女として迎えることになる。彼女は「ベティアン」と名付けられ、優しい両親の庇護のもと成長しながら、人との関りをとおして人間としての心を育みながらも、どこか孤独感を抱いている。

 一方、安住の地を求め遠く宇宙を放浪するアミオ族は、様々な星の知的生命体との出会い、同族との哀しい別れをとおして絶滅の危機を感じ取り、幼いときに行方不明となっているアミオ族の末裔を探し始める。

 大学生として立派な女性として成長したベティアンはアミオ族との邂逅をとおして、自分の本当の姿を知ることになる。

  ベティアンの日々の暮らしとアミオ族の果てしない流浪の旅が交互に入替り、やがてひとつに交じり合う。静かに静かにただゆっくりと流れてゆく日々と優しい想い出、見慣れた日常の景色、ベティアンの記憶、そして決断...。

本作の❝帰れ❞は二つの意味が込められていると思う。
愛する両親のもとへ、もう一つはアミオ族のもとへ。

 海外版「竹取物語」を彷彿させる本作は、登場する人々の一人一人に温かい血が流れ、愛する人が離れてゆく切ない気持ち、愛する人から離れてゆく気持ちをベティアンの眼差しをとおして教えられる。
この穏やかで優しい隠れた名作を是非手に取っていただきたい。