読める日の停車駅

千を超える蔵書を少しづつ少しづつ読んでいます。読んではいるものの、元来読んだ内容を忘れやすいので、内容や雑感を記しています。誰かに見て頂いている態で書くのは大変おこがましいので、淡々と記録のような書き方をすることもあります。

2020-11-01から1ヶ月間の記事一覧

芥川龍之介の翻訳「クラリモンド」

クラリモンド…彼女が私の前に現れたのは、一人の僧侶として、神の下に生涯を捧げると誓ったその日であった… その日を境に彼女の虜となった私は、少しずつ只着実に破滅へ近づいてゆくのであった。私の心を魅了し、決して放そうとしない美しく妖しい女クラリモ…

趣のある装丁「星の王子さま」

岩波少年文庫版53をどうしても持っておきたく、ネットで色々捜し廻り、昭和39年の重刷を入手した。 テグジュペリ「星の王子さま」黄色く塗られた段ボールの函と、装丁のアンサンブルが何とも言えなくいい。

お気に入りの作品「煙草と悪魔」

芥川龍之介の短編集「煙草と悪魔」より表題作の「煙草と悪魔」 フランシスコ・ザビエルの宣教団の一行に紛れて日本へやって来た悪魔が、牛商人との知恵比べをする話。せっせと畑仕事に精を出す姿、夜はきちんと寝ている姿など悪魔が何とも人間らしくて滑稽で…

世知辛い世の中の縮図を猫で再現した名作「猫の事務所」

宮沢賢治氏は、動物や自然を使った人間社会の表現が非常に巧みである。 写真はたてしな書房の宮沢賢治復刻版短編集「猫の事務所」より登場するのはすべて猫であるが、そのまま人間社会の縮図と見ていいといえる。仕事も周囲への気遣いも申し分ないのに、住ん…

物悲しくもゾッとする昔話「リップ・ヴァン・ウィンクル」

気立てがよくのんびり屋のリップ・ヴァン・ウィンクルが、口煩い妻から逃れ、気晴らしの狩猟に出掛けた山で出会った奇妙な一団との酒宴。ついつい飲み過ぎた後、気付くと今しがた居た筈の場所は変わり果て、延いては自分の住まいに家族、周囲の人々、政治思…

一夜だけの仲間。ホーソン「七人の風来坊」

ホーソンの短編集より「七人の風来坊」一泊の雨宿りをと立ち寄った馬車小屋に、何かに導かれるように集った七人の紳士淑女の顔触れ。 一晩だけの行きずりの仲間たちが、其々の持ち味を披露しながら、"野外集会"に参加するという行き当たりばったりの計画をぶ…

ひと昔前の手触り「賃金・価格および利潤」

およそ経済学の本に縁遠い私であったが、行きつけの古本屋さんの岩波文庫コーナーに、一際異彩を放つ装丁が。 茶色の唐草模様に、粗めであるが今の岩波文庫より軽くて優しい手触りの紙質、目に優しい旧仮名遣いの活字。SNSの読書グループの方の助言では馬糞…

完成度抜群のノベライズ「エイリアン」

本作は流通市場でも入手できるものであるが、およそ二年前オークションで入札合戦を経て、流通価格より安価に入手したものである。広大無辺な宇宙空間の静けさを表した何とも味のある装丁である。 後に主人公リプリーをエイリアンとの闘いの生涯へと誘う原点…

装幀が魅力的な「黒蜥蜴」

云わずと知れた名作をふじ書房版で愉しむ。江戸川乱歩「黒蜥蜴」 美しく華麗で非情な女賊"黒蜥蜴"と名探偵明智小五郎。 賊としての自信とプライド、探偵としての威信を掛け、宿命の対決の幕が切って落とされる。どちらがどちらを欺いているのか、息も付かせ…

「定本青猫」1,000部限定版入手の話

かつて短編集「猫町」を読んだ際、いまいちその世界観に付いて行けなかった萩原朔太郎氏の作品群であったが、オークションで詩集「定本青猫」の1,000部限定復刻版が挙がっているや否や、居ても経ってもいられず、虎視眈々と勝負の時を待ち続け、怒涛の入札合…

理想と現実「牛肉と馬鈴薯」

国木田独歩の短編集「酒中日記」より「牛肉と馬鈴薯」今は無き明治倶楽部にその夜は珍しく灯っている明かり。其処に集った七人の紳士が、温かいストーブの前で、牛肉を"理想"、馬鈴薯(じゃがいも)を"現実"に見立て、誰ともなく大いに自らの主義・思想・経験…

もう一度「悲しみよこんにちは」

以前読み終えたサガンの「悲しみよこんにちは」に、昭和三十年代の文庫版表紙があることを、ある古本屋さんのツイートにより知った。問い合わせてみたが、今から二年前の記事だから勿論もう売れている。しかしある日、インターネットオークションを物色して…

春琴抄と再会した話

本とは様々な出会いがある。 一冊ゝの本に手にした時の思い出がある。この作品もそのひとつである。 「春琴抄」谷崎潤一郎著初めて読んだのは三年前の文庫版。 その当時は、句読点のない読み難さに、もう読むことはないだろうと思っていたもの。時が経てば不…