読める日の停車駅

千を超える蔵書を少しづつ少しづつ読んでいます。読んではいるものの、元来読んだ内容を忘れやすいので、内容や雑感を記しています。誰かに見て頂いている態で書くのは大変おこがましいので、淡々と記録のような書き方をすることもあります。

2022-05-01から1ヶ月間の記事一覧

読書していると脳内がテレビ代わりになるので、テレビは要らないと思う持論

本格的に本を読むようになってからというもの、自分からテレビを点ける事がほとんど無くなったように思える。 点けても本や作家に関する番組ばかりのような気もして、それもほとんど機会が無い。 強いていえば、YouTubeで特定の文学作品についての四方山話チ…

テグジュペリの「夜間飛行」の主役リヴィエールに見る経営者の熱き魂とその哲学

テグジュペリの中編作品「夜間飛行」の主役、夜間郵便飛行の支配人リヴィエール。 彼は非常に冷徹で恐い。 これはあくまで下の立場から見たリヴィエールの姿であり、実際職場にこんな上司が居たとしたら、毎日背筋がすくむ思いであろう。 作中の彼は職員と職…

「集金旅行」を通読すると近代日本文学のエンタメ帝王は、やはり井伏鱒二であると思う

以前通読した「駅前旅館」から受けるユーモア溢れる文体と粋な遊び心、少しの哀切からずっと注目し続けているのが井伏鱒二先生。その作風は決して荘厳ではなく、おおらかでテンポも小気味よい。 しかもちゃんと文学している。 先日、久し振りに著者の作品を…

法と不実の犠牲者ヨーゼフ・Kに哀悼の意を・カフカの「審判」まとめ

この小説とも作者の悲痛な訴えともとれる大作「審判」 全編を通して感じるのは、結局のところ権力には抗えないということであり、その前ではいくら目で見える色が白でも黒になり得るのだ。 これが法と秩序を司る裁判所の実態であるというのが、作者カフカが…

読書ノオト・カフカの「審判」第十章および未完の断章

第十章 結末 ある日の夜9時頃、シルクハットの男二人がKの自宅を訪ねてくる。 Kはその男たちに両脇を固められながら、何処ともなく歩を進める。途中橋の欄干から見える、かつてKが昼寝していた長閑な川のほとりの情景が、これまでの殺伐とした空気をすべて帳…

読書ノオト・カフカの「審判」第九章

物語も大詰めを迎えるかと思いきや、一向に見えてこないKの罪業。 この章の前半は久しぶりに物語ぽくなっており、読むのに退屈しない。第九章 伽藍 Kはこのところ銀行仕事において、接待ばかり任されるようになり、足許が覚束ない調子である。 今回も支店長…

トーマス・マンの短篇「悩みのひととき」の通読により受ける詩人シラーの熱い情熱は、自分自身を奮い立たせるきっかけにもなる

トーマス・マンがゲーテとともに師事していた1700年代の有名な詩人に、フリードリヒ・フォン・シラーという人がいる。 (designACのイラストよりシラー) トーマス・マンの短篇の中に、シラーの創作までの苦悩と燃えるような情熱を綴った一作「悩みのひととき…

読書ノオト・カフカの「審判」第八章

章末にある訳者の解説によると、この章は訳文以上に続きがあるらしい。 「城」でのKと内儀さんの会話並みに、Kと商人ブロック、レェニ、弁護士間の対話が退屈に感じ、複雑である。第ハ章 ブロックという商人 弁護士を解約する腐敗した裁判制度に辟易していた…

読書ノオト・カフカの「審判」第七章

裁判制度についての平坦な会話が延々と続くので、退屈な章ではあるが、流石カフカのアイロニーが溢れている。第七章 弁護士 工場主 画家 Kは前章の弁護士から、裁判官と割と面識のある画家を紹介され、早速その画家の住まいを訪ねる。 画家は裁判所自称顧問…

読書ノオト・カフカの「審判」第五章から第六章

第五章 鞭を鳴らす男 ある日Kが職場の倉庫からうめき声がするので、扉を開けてみると、第一章に出てきた監視人のフランツとヴィレムが、一人の笞吏に鞭打たれている。 何でもKの逮捕の日、下着を横領したのとKの朝食を無断で食べた罪らしい。 次の日もKは同…

読書ノオト・カフカの「審判」第一章から第四章

こうやってまとめていると、後でも分かりやすく思い出しやすい。 【審判】 第一章 逮捕 主人公ヨゼフ・K、起き抜けに自身の部屋で突然の逮捕(とは言え拘束はされない) 隣人女性ピュルストナー留守の間、彼女の部屋で、謎の男たちに囲まれ謎の陳述が始まる。 …

城崎の情景を思い浮かべながら志賀直哉の「城の崎にて」を読んでみる

兵庫県の城崎温泉が舞台となった、随筆とも小説とも取れる志賀直哉の短篇「城の崎にて」 山手線の列車に跳ね飛ばされながらも、奇跡的に一命を取り留めた主人公(作者自身)が、療養のため滞在した城崎で体験した幾つかの小動物の「死」とその間際に、自身の命…

ヘミングウェイ「白い象のような丘」にある、男女の修羅場の向こうに仰ぐ雄大な山なみはどんな風景だったのか想像する

スペインの駅の酒場で列車を待つ、ある男女の会話を切り取ったヘミングウェイの有名な短篇は、私の持っている作品集「キリマンジャロの雪(瀧口訳)」では、タイトルが「白い象のような丘」であり、よく目にする方のタイトルは「白い象のような山並み」である…

蠅の視点で読んでみる・横光利一「蠅」

馬車の崩落事故から唯一生還する蠅を中心に描いた、小説の神様、横光利一の名短篇「蠅」 View this post on Instagram A post shared by kaz-teaの本とうたた寝 (@10_daydream_book) 客を乗せた馬車が崖下に落ちてゆく中、唯一事故を予見しながらも無関心に…