読める日の停車駅

千を超える蔵書を少しづつ少しづつ読んでいます。読んではいるものの、元来読んだ内容を忘れやすいので、内容や雑感を記しています。誰かに見て頂いている態で書くのは大変おこがましいので、淡々と記録のような書き方をすることもあります。

蠅の視点で読んでみる・横光利一「蠅」

 馬車の崩落事故から唯一生還する蠅を中心に描いた、小説の神様横光利一の名短篇「蠅」

 客を乗せた馬車が崖下に落ちてゆく中、唯一事故を予見しながらも無関心に飛び去る蠅と、それぞれの事情を抱えながら馬車に乗り込んだ乗客たちが無情にも命を落とす様が実に印象深い。

 普段疎ましい存在である蠅が、横光利一の卓抜した文の世界の中だけは、魅力的なものに思えてしまう。