城崎の情景を思い浮かべながら志賀直哉の「城の崎にて」を読んでみる
兵庫県の城崎温泉が舞台となった、随筆とも小説とも取れる志賀直哉の短篇「城の崎にて」
山手線の列車に跳ね飛ばされながらも、奇跡的に一命を取り留めた主人公(作者自身)が、療養のため滞在した城崎で体験した幾つかの小動物の「死」とその間際に、自身の命を照らし合わせるという非常にシュールな作品である。
悉く癖と無駄を削り、読みやすさを追求し、死なので洗練された文体は、通読した後でもずっと印象に残っている。
(ひょうごツーリズム協会様が無料公開されていた画像を借用)
散歩の道すがら、主人公が鼠の窮地に遭遇した橋はここなのかも…⁉
さて、写真で見る限り城崎温泉街は非常に長閑な場所に見え、夜は一層美しい印象であるが、この「城の崎」にての情景は、温泉街の風景はさて置き、家の周辺でも意識すれば出くわすと思われる日常的な風景(蜂、鼠、井守の死なので余りないかもしれないが)が主で描かれており、周囲の物については、宿や橋、散歩などの表現ばかりで読み手の想像のみが頼りであることが、却ってまだ見ぬ城崎の地への旅情をかきたてるのである。
そして、舞台は城崎であるから映えているし、それ以外うってつけの舞台はないと思う。
長閑な温泉に美味しい料理。
ぶらぶらと昼と夜の街並みを散歩。
城崎への思いが膨らむばかりである。