読める日の停車駅

千を超える蔵書を少しづつ少しづつ読んでいます。読んではいるものの、元来読んだ内容を忘れやすいので、内容や雑感を記しています。誰かに見て頂いている態で書くのは大変おこがましいので、淡々と記録のような書き方をすることもあります。

「深夜プラス1」ギャビン・ライアル

今年の上半期わたしが読んだ小説の中でも最も面白い作品と言えると思う。
まず、「深夜プラス1」という印象的で意味深なタイトルに惹かれ購入に至ったのも正直なところである。
あわせてこの味のあるカバー画。
この作品を敢えて手短に表すのであればわたしはこのように表すだろう。
”熱気を帯びた男達の熱き戦い"
そう言えば、ちょうど時計が真夜中を1分過ぎた頃である。

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早川文庫版S51.6.15 2刷。文庫初版はなかなか入手困難かもしれない。
年代物を挙げれば、他にもハヤカワH.P.B版もある。少し細かい話であるが、表紙のタイトルはわたしが知っている限りで水色版と黄色版がある。


深夜プラス1
 降りしきる雨の中、闇夜を疾走するシトロエン

機関銃の如く火を吹くモーゼル
重なり合い纏りつく過去の因果とプライド。善と悪の狭間の葛藤。酒と短い間の友情。
周到に待ち構える罠と目に見えぬ驚異。
手に汗握る追手との銃撃戦。

 雇われの昔気質のエージェントのケインとアル中のガンマンハーヴェイの即席コンビは、実業家マガンハルトを無事目的地リヒテンシュタインまで護送できるのか…

 全編とおした洗練されたスタイリッシュな会話と無駄のなさ、熱気を帯びた男たちの非情な世界はとにかく格好いいとしか言い様がない。
 また、特筆すべき点はケイン(カントン)、相棒ハーヴェイのそれぞれがそれぞれの仕事に信条と拘りを持って徹していることである。合理的な判断、車輌運転操作、間合の取り方、車中で銃をすぐ取出せる工夫など至る所に、これぞプロフェッショナルと言える仕事振りが散りばめられている。
 あわせて、彼らが自分たちより格上のガンマン、アランベルナールを常に意識していることで、カントンの行動が沈着冷静な任務遂行から勝利への欲求へ変化し始めるのも、この作品の最大要素の一つであると言えるだろう。更にアランベルナールに関する容姿は一切語られず、ほとんどセリフらしいセリフも無く、登場シーンも限られているのに係わらず、いつの間にかアランの登場と対決を待ち詫びるぐらい、却って一層彼らの存在感を醸し出している。
また、カントンにしてもハーヴェイにしても妙に人間臭い。(でもカントンは格好いい)
シトロエンDS、ロールス・ロイスなどの車やモーゼルといったクラシックなアイテムも男心をくすぐる。

そして最後に分かる「深夜プラス1」の意味が奥深い。


作品中に朝・昼・夜の情景が出てくるが、やはり深夜にしっとり読むのがいいかもしれない。

 

わたしのような者が申すのもおこがましいが
―本作と酒をこよなく愛した内藤陳さんに敬意を表して―
最高に格好いい男たちが活躍する最高に格好いいロードノヴェル
「深夜プラス1/ギャビン・ライアル