青年時代をめぐる回想「お菓子と麦酒」モーム
イギリスが誇る文豪の一人といえば、サマセット・モームが挙げられるのではないだろうか。
以前からモームは知っているものの著者の作品にまだ触れたことなかったのであるが、この「お菓子と麦酒」というタイトルに惹かれ、昨年末に購入してからというものしばらくの間本棚に積まれている状態だった。漸く今年のG.W終わり頃手にすることにした。
著者本人の晩年の作品であり、モーム本人もお気に入りの作品。
新潮文庫S57.1.30 30刷 モームの作品群の表紙のツートンカラーはいつも味がある。
お菓子と麦酒
終盤になってこのタイトルが堅物のテッドと自由奔放な魔性の女性ロウジーを象徴するものではないのかと少し分かった気がした。
亡きドリッフィールド(テッド)の栄誉を称え伝記を書きたいと友人に協力を依頼されたのをきっかけに、今はもう誰も知らないテッドとロウジー夫妻の本当の姿を、主人公のアッシェンデンが自らの青年時代と重ね合わせながらひとり回想してゆくというプロットの本作。
そこにはアッシェンデンとロウジー二人だけの誰にも言えない淡い秘密があり、ロウジーの影を追い求めるアッシェンデンの姿に心惹かれる。
このように人間描写と情緒を緻密に描く作品はとてもいい。
本当に読んでよかったと思える。
しかし、このタイトル「お菓子と麦酒(ビール)」のフレーズがとても好きなのだ。
岩波文庫からも訳者とタイトルを少し変えた同作が出版されている。