読める日の停車駅

千を超える蔵書を少しづつ少しづつ読んでいます。読んではいるものの、元来読んだ内容を忘れやすいので、内容や雑感を記しています。誰かに見て頂いている態で書くのは大変おこがましいので、淡々と記録のような書き方をすることもあります。

親の見守る愛情がひしひしと伝わる作品・宮沢賢治「貝の火」

宮澤賢治・人と藝術 他遺稿童話集」より
宮澤賢治の短編童話「貝の火

昭和十年頃の抜取りのようなので、著者天逝のおよそ二年後に遺稿として誌面を飾ったと思われる。

命を助けた礼に"貝の火"という宝玉を授かってからというもの、親の忠告も聞かず、傍若無人に振る舞い権力を振りかざす子ウサギのホモイ。

力の使い間違い、他の力にばかり頼っていては、そのうち限界を迎えること。
最後までひた向きに子を案じ続ける親の優しさ。
父親の温かさに、同じく子の父親である自分も心打たれるものがあった。

賢治氏の作品には時代を越えて学ぶ教訓がある。

芥川龍之介の翻訳「クラリモンド」

クラリモンド…

彼女が私の前に現れたのは、一人の僧侶として、神の下に生涯を捧げると誓ったその日であった…
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その日を境に彼女の虜となった私は、少しずつ只着実に破滅へ近づいてゆくのであった。

私の心を魅了し、決して放そうとしない美しく妖しい女クラリモンド。

彼女は一体何者なのか…。

文豪芥川龍之介(竜之介)の洗練された訳文で送る古典吸血鬼小説

ゴーチェ「クラリモンド」

趣のある装丁「星の王子さま」

岩波少年文庫版53をどうしても持っておきたく、ネットで色々捜し廻り、昭和39年の重刷を入手した。
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テグジュペリ「星の王子さま

黄色く塗られた段ボールの函と、装丁のアンサンブルが何とも言えなくいい。

お気に入りの作品「煙草と悪魔」

芥川龍之介の短編集「煙草と悪魔」より表題作の「煙草と悪魔」
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フランシスコ・ザビエルの宣教団の一行に紛れて日本へやって来た悪魔が、牛商人との知恵比べをする話。

せっせと畑仕事に精を出す姿、夜はきちんと寝ている姿など悪魔が何とも人間らしくて滑稽である。

悪魔と牛商人、果たしてどちらの勝利と言えるだろうか。

読んだのは復刻版であるが、余りにもお気に入りの作品なので、趣味が昂じて大正時代の書籍を揃え直したほど。

世知辛い世の中の縮図を猫で再現した名作「猫の事務所」

宮沢賢治氏は、動物や自然を使った人間社会の表現が非常に巧みである。
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写真はたてしな書房の宮沢賢治復刻版短編集「猫の事務所」より

登場するのはすべて猫であるが、そのまま人間社会の縮図と見ていいといえる。

仕事も周囲への気遣いも申し分ないのに、住んでいる環境や見た目・やっかみで、同僚から不遇な扱いを受ける"かま猫"がひとり悩み、人知れず涙を流す姿はとても不憫で心に訴えるものがある。

最後には救われた気持ちになるが、まず人権尊重できないものが社会の公器であらざるべからずということではないかと私は感じる。

人間社会でもよくあることであり、その中で自分はどうあるべきかと教えられる。