物悲しくもゾッとする昔話「リップ・ヴァン・ウィンクル」
気立てがよくのんびり屋のリップ・ヴァン・ウィンクルが、口煩い妻から逃れ、気晴らしの狩猟に出掛けた山で出会った奇妙な一団との酒宴。
ついつい飲み過ぎた後、気付くと今しがた居た筈の場所は変わり果て、延いては自分の住まいに家族、周囲の人々、政治思想に至るまで見知らぬものに変わっていた…
19世紀の米国作家ワシントン・アーヴィングが口碑、民間伝承を元に綴った短編集「スケッチ・ブック」より「リップ・ヴァン・ウィンクル」
家庭のかかあ天下という名の王政政治と、国の王政政治の終演を掛け合わせたアイロニーと物悲しさ。
お伽噺のような出来事への少しゾッとする言い伝え。
近頃の乱読・並読気分に乗って、二年ほど本棚で眠らせていた本書を気まぐれに手に取れたことがよかったと思えるほど面白い話であった。
一夜だけの仲間。ホーソン「七人の風来坊」
ホーソンの短編集より「七人の風来坊」
一泊の雨宿りをと立ち寄った馬車小屋に、何かに導かれるように集った七人の紳士淑女の顔触れ。
一晩だけの行きずりの仲間たちが、其々の持ち味を披露しながら、"野外集会"に参加するという行き当たりばったりの計画をぶち挙げ、この夜を愉快に踊り更ける。
個性ある面々に少々劣等感を覚えながらも、自分の立ち位置を得ようと何とか頑張るロマンチストな主人公がいじらしい。
結局夜宴の間に"野外集会"は終わっており、朝の光の中、一夜だけの仲間たちはそれぞれの方向へ解散してしまう。
主人公の「私」は、賑やかな楽士や占い師などではなく、中でも寡黙な土人の人と肩を並べて旅立つという如何にも主人公という性格を表した描写がまた趣がある。
初めての場所で、初めて合う顔触れと仲間意識を育みつつ、声の大きい者がその場の勢いで皆で○○やろうよ!と自分の意思とは別に強引に決まってしまうような、身近に経験ありそうで無いような感覚を愉しめる一作。
- 作者:ホーソーン
- 発売日: 1952/10/15
- メディア: 文庫
完成度抜群のノベライズ「エイリアン」
本作は流通市場でも入手できるものであるが、およそ二年前オークションで入札合戦を経て、流通価格より安価に入手したものである。
広大無辺な宇宙空間の静けさを表した何とも味のある装丁である。
後に主人公リプリーをエイリアンとの闘いの生涯へと誘う原点となったノストロモ号の悲劇こと、映画「エイリアン」の世界を描いたノベライズである。
本作は日本での映画公開と同年に出たもので、内容は原作に沿いながらも、乗組員息遣いや心情が一層感じられ、映像版を復習する意味でも大変クオリティの高い作品となっている。
"宇宙ではあなたの悲鳴は聞こえない"
装幀が魅力的な「黒蜥蜴」
云わずと知れた名作をふじ書房版で愉しむ。
江戸川乱歩「黒蜥蜴」
美しく華麗で非情な女賊"黒蜥蜴"と名探偵明智小五郎。
賊としての自信とプライド、探偵としての威信を掛け、宿命の対決の幕が切って落とされる。
どちらがどちらを欺いているのか、息も付かせぬスリリングな展開の中、明智探偵は、最後までスマートで格好よく事件を締め括る。
自分にとっての永遠のヒーローはやはりこの人、名探偵明智小五郎。
そしてこの妖しさとインパクト溢れる三色使いの装丁
元々貸本であったため、バラけ防止の紐綴じも趣がある。
ネットで探し当て、古本屋さんと交渉の末、納得の購入に至ったもの。
駄目で元々ながら、古本屋さんとコミュニケーションを交わしてみるのも古本漫遊の愉しみかもしれない。