「宇宙戦争」H.G.ウエルズ
先入観では蛸のような姿の火星人(火星人と言えば)との闘いを想像した。
しかしこの作品は一人の男の回想から紡ぎ出される。
それは異星人の侵略と脅威の中生き抜いた男の壮絶で哲学的な話であった。
写真は東京創元社の文庫1978年8月25日発行 11刷
現在この装幀のものはなく、別に黒い背景に宇宙人と宇宙人の乗り物のイラストが描かれた角川文庫版もあるようだ。
宇宙戦争
食料も交通も住み家も家族も。すべてを失った極限の状況と迫り来る未知の生物と兵器の驚異の中、人は何を感じどうのように前に進んで行くのかを刻々と描いたこの作品。H.G.ウエルズ著「宇宙戦争」。
我先に逃げて行く人々。次第に狂ってゆく同胞…
宇宙人の襲撃の中の僅かな希望。
未曾有の驚異の中にある人間の本能を見事に映し出した名作。
人間との直接対峙する描写はなく、圧倒的な力で一方的に淡々と宇宙人は破壊工作を続け、脅威を見せつける。
個人的に本作の着目すべき部分は、中盤主人公が宇宙人の襲撃に遭い、同行者の副牧師とともに瓦礫の下に閉じ込められてからである。極限に晒された状態が続くことで、人間の見たくない部分が次々垣間見え、それからどうしていくかという点に、本作の真の深みがある。
残念ながら映画はまだ見たことないが、いずれ映画との見比べもしてみたい。
よい作品は多くの台詞で飾る必要もなく文で臨場感を醸し出す。
寧ろ最後まで人物に名前を与えてないことで、却って意識が分散せず作品の世界観へ浸ることが出来る。
そのような作品である。