ジャン=フィリップ・トゥーサン「浴室」レビュー
久しぶりに一冊読めたのであります。
今回は、今月の読書会の課題図書として選書させていただいた「浴室」です。
裏表紙のあらすじが興味をそそります。
あらすじを読めば浴室を中心に物語が展開するように思えますが、実際は浴室に籠っているシーンはほんの少しです。
主人公自身アクティブではありません。どこか少し心が疲れている?ようです。
淡々と自分目線で語られる些細な言動の数々に、自分の殻から抜け出そうとする「ぼく」の苦悩も感じられる程です。
しかし、なぜ「ぼく」がそんなにすさんでいるかはよくわからないままです。
人間関係に疲れているのでしょうか。
パリでもどこでも、彼女が言おうと誰が言おうと、彼のマイペースっぷりはどこまでも続きます。
ナイーブなのか何なのか。
物事を俯瞰して見る主人公の様子は、少し性質が歪んでいるようにも思えます。
ただ漂うのは彼の果てのない空虚感です。
彼が起こす振る舞いの数々は、まるで「キャッチャー・イン・ザ・ライ」のホールデン青年を見ているようでありました。