読める日の停車駅

千を超える蔵書を少しづつ少しづつ読んでいます。読んではいるものの、元来読んだ内容を忘れやすいので、内容や雑感を記しています。誰かに見て頂いている態で書くのは大変おこがましいので、淡々と記録のような書き方をすることもあります。

不条理と狂気と破滅 偶然の音楽

一昨夜の読書会の課題本、P.オースター「偶然の音楽」です。梨のジュースと。
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本当によく構成されたストーリーで、見ようで何とでも解釈できます。選書してくださったメンバーの方に感謝する限りです。

やはりストーリーの奥底に潜むものは、狂気と破滅。
偶然がまるで音を奏で、弧を描くように主人公を取り巻く。

ストーンの悪趣味なミニチュア模型の街と対照的に主人公の前に立ちはだかる城壁積みの現実。

成金が借金のカタに城壁を積ませるという行為そのものが、変人性と狂気を帯びたものをどこか感じさせます。

会の皆さんと話し合うと、深く斬新な考察が次々出てきます。

・マークス黒幕説
・フラワー&ストーンがポーカー弱い振りしてた説
・ポッツィ重体の裏に、マークスの知らないところ
で娘婿のフロイトが実行犯として、フラワー&
ストーンに雇われてた説

流石卓越した読書家の皆さん。
物語を読むと、どの考察もそう思えるしそうでもないとも思える。
敢えて物事の確信に触れず、読み手に考えさせるのは、やはりオースターの技法かなと感心するばかりです。

私はほとんどうまく考えをまとめられていませんでした。

よくよく考えると、主要人物の殆どに狂気的な一面が伺え、一見最も冷静沈着な主人公ナッシュが最も狂っていたのではとも感じられます。(メンバーの方の意見からなるほどと思いました。)

ナッシュはポッツィと出会い財産を投げうることで、人生の巻き直しを計り、支配の下で以外にも労働・友情という、これまでの空虚感漂う生活から見出だせなかった人間らしい生き甲斐を手に入れる。
そこから追金の返済、ポッツイの生死不明から徐々に喪失し始めるアイデンティティ
そして突然パシッと切られるような衝撃のラスト。
ナッシュは最後にサーブのハンドルを握って何を思ったのか…

とにかく読み手をぐいぐい引き込む良作です。
以前読んだ「シティ・オヴ・グラス」を含め、私はすっかりオースターファンです。

偶然の音楽 (新潮文庫)

偶然の音楽 (新潮文庫)