徐々に崩壊してゆく自我。シティ・オヴ・グラス
前回の「ボートの三人男」に続いて読み終えたのは、アメリカのポストモダン派の名手、ポール・オールスターのデビュー作「シティ・オヴ・グラス」です。
有名な翻訳家でありアメリカ研究家の柴田元幸氏が、「ガラスの街」で再翻訳していますね。
オールスターのニューヨーク三部作のひとつです。
夜の街並みがなにかを思わせます。
ずっと遠い何かを。
主人公のクィンは作家で、ある間違い電話から探偵として依頼を受け、スティルマンという服役から出所する人物の尾行をはじめます。
依頼人の夫(スティルマンの息子のピーター)は、幼い頃父のスティルマンに手酷い仕打ちをされており、完全に人間性が崩壊しています。その妻は、義父スティルマンからの報復を恐れています。
ところが、いくら尾行しても何も起こらない上、ピーター家にも接近する様子もない。痺れを切らして直にコミュニケーションを諮るも、毎回相手はクィンの顔を全く覚えていない。
遂にはスティルマン失踪という形で、相手を見失ったクィン。
ここからクィンが徐々に、狂気じみた強迫観念というのか責任感といったものに憑かれ、破滅への道を辿ってしまいます。
この物語の主とする部分は、ミステリー的な展開に助長されたひとりの人間の破滅であります。
表紙の街並みは、クィンの視点で、もう戻れない場所をイメージしているのでしょうか。
終わりにかけて、その崩壊が真に迫るものになっており、私としても読み応えのある作品となりました。
偶然にも、次の読書会の課題が、同ポール・オースターの「偶然の音楽」になりました。
- 作者:ポール・オースター
- メディア: 文庫
- 作者:ポール オースター
- 発売日: 2013/08/28
- メディア: 文庫