読める日の停車駅

千を超える蔵書を少しづつ少しづつ読んでいます。読んではいるものの、元来読んだ内容を忘れやすいので、内容や雑感を記しています。誰かに見て頂いている態で書くのは大変おこがましいので、淡々と記録のような書き方をすることもあります。

徐々に崩壊してゆく自我。シティ・オヴ・グラス

前回の「ボートの三人男」に続いて読み終えたのは、アメリカのポストモダン派の名手、ポール・オールスターのデビュー作「シティ・オヴ・グラス」です。

有名な翻訳家でありアメリカ研究家の柴田元幸氏が、「ガラスの街」で再翻訳していますね。

オールスターのニューヨーク三部作のひとつです。

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夜の街並みがなにかを思わせます。
ずっと遠い何かを。

主人公のクィンは作家で、ある間違い電話から探偵として依頼を受け、スティルマンという服役から出所する人物の尾行をはじめます。

依頼人の夫(スティルマンの息子のピーター)は、幼い頃父のスティルマンに手酷い仕打ちをされており、完全に人間性が崩壊しています。その妻は、義父スティルマンからの報復を恐れています。

ところが、いくら尾行しても何も起こらない上、ピーター家にも接近する様子もない。痺れを切らして直にコミュニケーションを諮るも、毎回相手はクィンの顔を全く覚えていない。

遂にはスティルマン失踪という形で、相手を見失ったクィン。

ここからクィンが徐々に、狂気じみた強迫観念というのか責任感といったものに憑かれ、破滅への道を辿ってしまいます。

この物語の主とする部分は、ミステリー的な展開に助長されたひとりの人間の破滅であります。

表紙の街並みは、クィンの視点で、もう戻れない場所をイメージしているのでしょうか。

終わりにかけて、その崩壊が真に迫るものになっており、私としても読み応えのある作品となりました。

偶然にも、次の読書会の課題が、同ポール・オースターの「偶然の音楽」になりました。

柴田元幸氏の別訳版
ガラスの街 (新潮文庫)

ガラスの街 (新潮文庫)