読める日の停車駅

千を超える蔵書を少しづつ少しづつ読んでいます。読んではいるものの、元来読んだ内容を忘れやすいので、内容や雑感を記しています。誰かに見て頂いている態で書くのは大変おこがましいので、淡々と記録のような書き方をすることもあります。

ひと昔前の手触り「賃金・価格および利潤」

およそ経済学の本に縁遠い私であったが、行きつけの古本屋さんの岩波文庫コーナーに、一際異彩を放つ装丁が。 茶色の唐草模様に、粗めであるが今の岩波文庫より軽くて優しい手触りの紙質、目に優しい旧仮名遣いの活字。SNSの読書グループの方の助言では馬糞…

完成度抜群のノベライズ「エイリアン」

本作は流通市場でも入手できるものであるが、およそ二年前オークションで入札合戦を経て、流通価格より安価に入手したものである。広大無辺な宇宙空間の静けさを表した何とも味のある装丁である。 後に主人公リプリーをエイリアンとの闘いの生涯へと誘う原点…

装幀が魅力的な「黒蜥蜴」

云わずと知れた名作をふじ書房版で愉しむ。江戸川乱歩「黒蜥蜴」 美しく華麗で非情な女賊"黒蜥蜴"と名探偵明智小五郎。 賊としての自信とプライド、探偵としての威信を掛け、宿命の対決の幕が切って落とされる。どちらがどちらを欺いているのか、息も付かせ…

「定本青猫」1,000部限定版入手の話

かつて短編集「猫町」を読んだ際、いまいちその世界観に付いて行けなかった萩原朔太郎氏の作品群であったが、オークションで詩集「定本青猫」の1,000部限定復刻版が挙がっているや否や、居ても経ってもいられず、虎視眈々と勝負の時を待ち続け、怒涛の入札合…

理想と現実「牛肉と馬鈴薯」

国木田独歩の短編集「酒中日記」より「牛肉と馬鈴薯」今は無き明治倶楽部にその夜は珍しく灯っている明かり。其処に集った七人の紳士が、温かいストーブの前で、牛肉を"理想"、馬鈴薯(じゃがいも)を"現実"に見立て、誰ともなく大いに自らの主義・思想・経験…

もう一度「悲しみよこんにちは」

以前読み終えたサガンの「悲しみよこんにちは」に、昭和三十年代の文庫版表紙があることを、ある古本屋さんのツイートにより知った。問い合わせてみたが、今から二年前の記事だから勿論もう売れている。しかしある日、インターネットオークションを物色して…

春琴抄と再会した話

本とは様々な出会いがある。 一冊ゝの本に手にした時の思い出がある。この作品もそのひとつである。 「春琴抄」谷崎潤一郎著初めて読んだのは三年前の文庫版。 その当時は、句読点のない読み難さに、もう読むことはないだろうと思っていたもの。時が経てば不…

寂寥感溢れるひと夏の悲しさ「悲しみよ こんにちは」F・サガン

多分読書会の選書にならなければ手に取ることがなかったであろう本書。いつも背表紙を見ても気に留めることなかった一冊が、こうして読まれるようになること、そしてこれまで知らなかったり関心がなかった作品を読むことによりる新たな発見、読書観の変化も…

悲哀漂うユーモア番頭物語「駅前旅館」井伏鱒二

昨日までのお盆三連休、いつも以上の飲食に体重の跳ね返りを気にしつつも、最近誕生した新しい命の温もりを胸に抱き、我が子の時はどうだったかなと思い浮かべつつ、家族皆の笑顔を少しむこうから眺め、わたし自身もここに居る幸せを感じる。 そんなささやか…

穏やかでやさしい隠れたSFの名作「ベティアンよ帰れ」クリス・ネヴィル

休日の穏やかな晴れた朝に読むのがよく合う本書クリス・ネヴィル著「ベティアンよ帰れ」。今朝読み終えた感銘の焔が消えないうちにこちらに綴りたいと思う。 かつてはダニエル・キイスの名作「アルジャーノンに花束を」と軒を連ねていたもののようであったが…

青年時代をめぐる回想「お菓子と麦酒」モーム

イギリスが誇る文豪の一人といえば、サマセット・モームが挙げられるのではないだろうか。 以前からモームは知っているものの著者の作品にまだ触れたことなかったのであるが、この「お菓子と麦酒」というタイトルに惹かれ、昨年末に購入してからというものし…

華麗なる翻弄「血の収穫」ハメット

かつて推理小説にハードボイルドスタイルを確立した偉大な米国作家ダシール・ハメットの傑作のひとつ「血の収穫」について綴りたいと思う。 講談社文庫S53.4.15 1刷ちなみに本作は複数翻訳されており、自分なりのリサーチの結果、翻訳内容・カバー画のインパ…

「ジョーズ」ピーター・ベンチリー

照付ける陽射しと青空、碧く煌めく海面、仄暗い水中、静かに忍び寄る三角の背びれ...「夏」と「海」で連想される映画と言えば、海洋スリラーの金字塔スピルバーグ監督の「ジョーズ」 が最もよく浮かんでくるのではないだろうか。 なお、この映画「ジョーズ」…

「ペスト」デフォー

あるサイトの紹介で、カミュの「ペスト」と表題を同じくする小説「ペスト」が存在することを知ったのが、本書を入手するきっかけであった。カミュの「ペスト」を読み、疫病に立向かう人々の姿と、そこはかとなく漂う類まれなる文学性に感銘を受け、いずれ併…

趣味のしおりづくり

読書の他に最近少しハマっている趣味の端くれ。 自分用栞づくり お気に入りの本の表紙やジャケットを使っているので、あくまで自分用として使用するだけ。まずはセリア材料製 こちらのセルフラミネートは若干硬めで、より熱接着ラミネートに近い仕上がり。続…

「トリフィド時代」ジョン・ウィンダム

文化が...開発が...生産が...農耕が...実生活を取巻くあらゆる環境が突如崩壊したら一体どうなるだろう。 まず本作の主題になっている「トリフィド」との邂逅は、およそ30年前私がまだ小学生のときに好んで持っていた「怪獣もの知り大百科(ケイブンシャ)」…

「老人と海」ヘミングウェイ

先ほど読み終えたばかりのアーネスト・ヘミングウェイの名作のひとつである「老人と海」について綴りたいと思う。 今回どうせ読むのであればと、素人ながら本格志向になってしまいこちらの装幀で揃えた。青い海と容赦なく照りつけ海面に反射する日光、握られ…

「廿日鼠と人間」スタインベック

今回は以前読んだジョン・スタインベックの代表作のひとつ「廿日鼠と人間」について綴りたいと思う。 角川文庫S35.6.10初版、杉木喬 訳 わたしが参加させていただいている読書会の課題図書になった際、個性を出してみたくて選んだのがこちらである。「廿日鼠…

読書観について真面目に思うこと

随分ブログをほったらかしにしていた。 年単位で放置してしまっていた。 その間も本への傾倒は続いており、趣向も緩やかに変化していった。 積む本も緩やかに増えていった。 遅読傾向は相変わらずのところで、メルヴィルの「白鯨」読破に四苦八苦した挙げ句…

「虹の彼方に」高橋源一郎

過去に読んだ「ジョン・レノン対火星人」や「さようなら、ギャングたち」で既に耐性と予想はついていながらも、相変わらずの筋書きのないハチャメチャ振りに、読書中何度も放り出そうと考えた本作。 何とも可愛らしいイラストで飾られた表紙。「虹の彼方に」…

「深夜プラス1」ギャビン・ライアル

今年の上半期わたしが読んだ小説の中でも最も面白い作品と言えると思う。まず、「深夜プラス1」という印象的で意味深なタイトルに惹かれ購入に至ったのも正直なところである。あわせてこの味のあるカバー画。この作品を敢えて手短に表すのであればわたしはこ…

「宇宙戦争」H.G.ウエルズ

先入観では蛸のような姿の火星人(火星人と言えば)との闘いを想像した。しかしこの作品は一人の男の回想から紡ぎ出される。それは異星人の侵略と脅威の中生き抜いた男の壮絶で哲学的な話であった。 写真は東京創元社の文庫1978年8月25日発行 11刷現在この装幀…

人生に少しのゆとりとユーモアを。「ボートの三人男」

小説を読みながら、かつてこんなに笑ったことあるだろうか。 ジェローム・K・ジェロームの書いたこの「ボートの三人男」は、今から約130年前もの作品でありながら、現代においてもそのユーモアセンスは褪せることなく、気品にみちみちた作品であることは間違…

不条理と狂気と破滅 偶然の音楽

一昨夜の読書会の課題本、P.オースター「偶然の音楽」です。梨のジュースと。 本当によく構成されたストーリーで、見ようで何とでも解釈できます。選書してくださったメンバーの方に感謝する限りです。やはりストーリーの奥底に潜むものは、狂気と破滅。 偶…

私たちは美しい地球(ほし)を守る義務がある。三島由紀夫-美しい星-

20日振りの完読です。 近頃は「すき間時間に何とか読まなければ」という強迫観念めいたものに駆られていたせいか、逆になかなか読み進まずここまで引っ張ったといったところになります。 言わずと知れた三島由紀夫の有名な作品ですね。ハイ。 いつもの流麗な…

三島、J・アーヴィング

久しぶりの並行読み。その日の気分に合わせて、今日はアーヴィングで。

徐々に崩壊してゆく自我。シティ・オヴ・グラス

前回の「ボートの三人男」に続いて読み終えたのは、アメリカのポストモダン派の名手、ポール・オールスターのデビュー作「シティ・オヴ・グラス」です。有名な翻訳家でありアメリカ研究家の柴田元幸氏が、「ガラスの街」で再翻訳していますね。オールスター…

ユーモアと気品に満ちたボートの旅「ボートの三人男」

「ロング・グッド・バイ」に続いて読み終えたのがコレです。 気鬱傾向の三人の英国紳士が、犬一匹を連れてテムズ河流域をボートで渡る物語。 終始ボートの旅に徹し、その気ままな道中にボート漕ぎにまつわるユニークな出来事を、主人公の目線により回想して…

隠れた名作見つけた。アダムよ、おまえはどこにいた

近所のBOOK OFFの108円コーナーにて見つけた本作品。 アダムよ、おまえはどこにいた しかも昭和47年の初版本で、恐らく絶版であり、状態は全体的にまだ美装であります。第二次世界大戦末期が舞台の兵士たちに焦点をあてたストーリーのようです。作者のハイン…

友情のような仄かな感情とお洒落で哀しいお別れ。ロング・グッド・バイ

仕事の昼休みにコツコツと苦節約一ヶ月 遅読のわたしにとって、とてもロングであった本作。 村上春樹氏がチャンドラーから大いに影響を受けていることが文体からよくわかります。正にハードボイルドとはこのことなのだと感じます。個性的な登場人物の面々、…